第91回七栗リハビリテーションセミナー

日程

2015. 3.5(木)  講演 18:30-20:00

講師

緒方徹 先生(国立障害者リハビリテーションセンター 障害者健康増進スポーツ科学センター センター長)

演題名

脊髄損傷リハビリにおける再生医療の意義

講演内容

今回は、緒方徹先生に脊髄損傷リハビリにおける再生医療の意義と題して、お話を頂きました。
 再生医療の現状として、15年前の脊髄損傷への治療といえば、ステロイド大量療法が一般的であったが、劇的な改善が得られたとは言い難い状況であった。最近では、それに代わる「再生医療」の可能性が唱えられている。再生医療の一つとして、細胞移植がある。例えば、シュワン細胞や嗅粘膜組織、グリア細胞、神経幹細胞などの移植があり、国内外の研究施設から報告がされている。ここで大切なのが、移植する「時期」である。最近の動向をまとめると、受傷後1ヶ月後時点では、骨髄移植(札幌医大)、iPS神経幹細胞(慶應大)などが、受傷後6ヶ月後時点では、嗅粘膜移植(大阪大)、iPS神経幹細胞(慶應大)移植が良いとされている。細胞移植以外では、急性期の薬物療法として、受傷3日以内ではG-CSFやHGF投与により損傷を最小限に収めるという神経保護治療が効果的であると言われている。
 再生医療に加えて理学療法が積極的に介入されることで、運動機能の(再)獲得(Use-dependent plasticity)を図る事ができる。機能回復のメカニズムとして、神経回路の視点では、再生医療などの治療により、まず神経軸索を信号が伝わり、前角細胞に信号が入るようになる。その後、随意的に制御できる対象が増える。徐々にシナプス結合が強化され、結果的に行動に変化が現れる。この中で、シナプス結合の強化には「反復練習」が必要であり、まさにリハビリテーションがその役割を果たすと考えられる。訓練の一例として、下肢の運動機能回復を考える場合に、脊髄内の歩行中枢(central pattern generator:CPG)を賦活することで、運動機能を回復させる可能性がある。最近では、Lokomatというロボットを使用して、歩行パターンの教示によるCPGの活動を強化する報告もされている。
 再生医療にできる事は、新しい神経細胞の補充や、シナプス形成の促進等の解剖学的な再組織化であり、可塑性が起こりやすい環境をつくることである。リハビリテーションでは、患者様のモチベーションをうまく高めた状態で、反復練習の提供、CPGの強化を図る事で実際に機能のある可塑性に導く事である。
今後は、再生医療と積極的なリハビリにより改善した機能をいかに維持するのか、または実用歩行に近づけるのかが課題となる。

会場

三重県総合文化センター

2015.3.17