三重県、青山高原の裾野、藤田学園の原点
七栗サナトリウムに期待するもの
豊田市・藤田保健衛生大学連携地域医療学寄附講座教授 浅井幹一
早いもので、七栗サナトリウム内科から藤田保健衛生大学病院一般内科へ移ってから10年が経ちました。私はこの3月で定年を迎えましたが、ご縁があって豊田地域医療センターからの寄附講座、連携地域医療学に新たに採用され、診療は藤田保健衛生大学病院総合診療内科で継続することになりました。豊田地域医療センターでは、慢性期の療養病棟や在宅の患者さんを診療することや、地域医療研修の研修先となっているので、研修医の先生に高齢者医療や地域連携について話をすることが仕事になっています。
しばらくは、内科初診外来や急性期病棟で高齢患者さんを中心に診る生活が続きましたが、また七栗の時代に一部戻ったような気がします。
私の七栗の時代は、病院が緩和ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟を整備する時期にあたり、七栗サナトリウムという病院の役割が地域で確立されてきた頃であったと思います。6年と少し在籍したのですが、高齢者医療は地域医療の重要な部分であることがわかり、訪問診療を内科外来の看護師さんと行ったり、デイケアを作ってもらい、温泉入浴に喜ぶお年寄りの顔をみることができたり、療養型病床で一色や大鳥など地域の要介護の患者さんを診たりなど、その後の自分をささえていく医療が学べたように思います。
介護保険サービスの立ち上げにかかわることができたのは、特に自分の財産と思っています。院長をはじめ病院幹部の方々の理解と協力をいただき、看護師、OT,PT、介護福祉士、ヘルパー、ケアマネージャーなど多職種の方たちと協働して仕事ができて幸いでした。その後藤田保健衛生大学病院でも地域医療連携の仕事に携わるようになり、医療連携福祉相談部という部門を作ってもらい責任者になったのですが、多職種が連携して仕事を行うことに七栗での経験を生かすことができました。
チーム医療を多職種協働で行うというのが、今日医療の世界でのあるべき姿とされていますが、実際には大きな組織になると、その職種でさまざまな専門性に基づく規範と目標ができ、他の職種と協働でうまく診療やケアを行うことをかえって妨げることがあります。
最低限カンファランスで時間や情報を共有し、決まりごとを取り決めてチーム医療を行うことが忙しい現場ではよく行われているスタイルですが、一人の患者さんを前にすると、患者さんのためによかれと各人は思っていても、個人やその属する職種の考え方から脱せられなくて、その場で必要な情報の交換やコミュニケ―ションすらできていないことがあるのです。たとえば電子カルテの記入は、各職種できっちりされていても情報やその評価の共有はあまり確認されていないことなどはその一例でしょう。
実際、このような連携は院内だけでなく、医療が一病院で完結しない今日では地域での多職種の連携が必要になるのですが、地域連携に少しかかわったところでは、まだまだこれからの課題であると思われます。
七栗サナトリウムは、リハビリや緩和ケア、高齢者医療など多職種が主役になる医療を、設立以来多くの方の努力で実現してきたという大きな財産があります。どうかこの多職種協働であるべき姿の医療を展開することをよき伝統として保ち、ますます発展されることを期待しております。