ウェルウォーク WW-2000
ウェルウォークWW-2000(以下、ウェルウォーク)は、「Mobility For All(すべての人に移動の自由を)」という気持ちを込めて、トヨタ自動車と藤田医科大学によって開発された脳卒中片麻痺者のための歩行練習支援ロボットです 1)。
1. 運動学習理論とウェルウォーク
リハビリテーションでは、運動学習理論を応用します。障害された機能は十分に強化を図りますが、それでも障害が残存することも少なくありません。障害がありながらも、残されている機能を十分に活用して、安全で効率的な新しい動作方法を学習することが重要です。
そのためには、「人はどのように練習をすると、新しい動作を覚えやすいのか」ということを、科学的に追求する必要があります。この科学が運動学習理論になります。そして、ウェルウォークはこの運動学習理論に基づいて開発されました。
ウェルウォークは歩行の全てをアシストするロボットではありません。様々なアシスト機能で歩くことの難しさを易しくしますが、患者さんが学んでほしい動きについてはあえてアシストしないようします。これにより、患者さんは学ぶべき動作に集中して反復練習をすることが可能になります。このアシスト量の設計は所定の研修を受けた理学療法士が実践します。
2.適応と対象
脳卒中により片麻痺を呈した患者さんが主な対象となります。当院では長下肢装具が必要となる患者さんには積極的にウェルウォークを使用しています。
3.精緻なパラメータ調整
膝伸展アシスト(膝を伸ばす)を10段階、振出しアシスト(麻痺側の足を前に出しやすくする)を6段階で調整可能であり、その他にも膝屈曲開始のタイミング、膝屈曲伸展時間等、歩行中にも操作パネル(図1)で変更可能であり、常に適切な難易度の歩行練習を提供できます。
図1.操作パネルの画面
4.多彩なフォードバック機能
ウェルウォークの前面モニタに、前額面(前方)の姿勢、矢状面(側方)の姿勢、足元の様子の3種類が映せます。患者さん自身が自分の歩き方を見ながら練習が可能です。その他に、過度に膝が曲がってしまった時や、歩行リズムを教示するための音フィードバックも組み合わせることができます。
5.ガイド・ゲーム機能
ウェルウォークには、異常歩行自動判定システムが搭載されており、異常な歩き方を検知し、どうすれば改善するのかの対策も提示してくれます。また、患者さんのモチベーションを維持・向上させつつリハビリを進めていくために、歩行練習の歩数をカウントし、達成感を得やすくする「東海道五十三次」や、課題をクリアするとポイントが加算されていく「姿勢ゲーム」も搭載されています。
研究実績
<論文>
Tomida K, Tanino G, Sonoda S, et al. Development of Gait Ability Assessment for hemiplegics (GAA) and verification of inter-rater reliability and validity. Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science 2021; 12: 19–26.
Tomida K, Sonoda S, Hirano S, et al. Randomized Controlled Trial of Gait Training Using Gait Exercise Assist Robot (GEAR) in Stroke Patients with Hemiplegia. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 28, No. 9, 2019: pp 2421-2428
<学会発表>
五十嵐瑠哉,鈴木 享,山森裕之,他:ウェルウォークを使用した脳卒中片麻痺患者の歩行自立度の自院データベースとの比較.第5回リハビリテーション医学会秋季大会,2021.
山森裕之,鈴木 享,川上健司,他:左アテローム血栓性脳塞栓症両片麻痺症例 に対するウェルウォークWW-1000の使用経験.第31回三重県理学療法学会,2020.
鈴木 享, 川上健司, 冨田 憲,他:生活期脳卒中片麻痺患者に対し,ウェルウォークWW-1000を使用した歩行練習により歩容改善を認めた一症例.第2回リハビリテーション医学会秋季大会,2019.
鈴木 享,谷野元 一,川上健司,他:Gait Exercise Assist Robot(GEAR)を使用した回復期脳卒中片麻痺患者における歩行練習効果.第31回全国回復期リハビリテーション病棟協会 研究大会 in岩手.2017.
冨田 憲,谷野元一,鈴木 享,他:Gait Exercise Assist Robotを使用した脳卒中片麻痺患者の症例報告 -練習時の歩行距離に着目して-.第53回日本リハビリテーション医学会学術集会,2016.
※ 学会発表は新しいものから5演題のみ掲載
<引用>
1) 平野哲、他:歩行練習アシスト(GEAR)と運動学習.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2017.
連絡先:rehab7n@fujita-hu.ac.jp
<2023.1.11>